青空の中を体の大きな猛禽類が、美しいらせんを描いて悠々と舞う。そんな光景が好きで、気がついたら毎年秋は「タカの渡り観察」に夢中になっていました。
タカたちは日本列島を縦断するように移動してゆく、その一部が見られることがすごいと思うし、どこを飛んでいるのか分かれば保全にもつなげられるのでは、と思っています。
今シーズンは初めて、春も少しだけ渡り観察に行ってみましたので、「まとめ」といえるほどでもないですが、備忘録も兼ねて記しておこうと思います。
春のタカの渡りとは?
秋の渡りは、繁殖を終えたタカたちが東南アジアに帰る際の渡りの様子を観察できます。
長野県の白樺峠や、愛知県の伊良湖岬をはじめとした全国各地の観察スポットで、ホークウォッチャーたちがタカの渡りを観察・カウントしていますが、新潟県内では小千谷市の山本山が有名で、秋のハイシーズンには多くの方が集まります。
では、タカが日本にやって来る春は???
以前、タカの渡り観察を始めた頃、ベテランの方に「春の渡りはどうなんですか?」と質問した際、「春は期間が長く、秋のようにまとまって来ないから、あんまり見られない」と教えてもらい、今までずっと、そういうものかと思っていました。誰も観察に行っていないようでしたので、ずっと「見られない」のかと。
ですが、昨年の春(5/13)に九州で1日にハチクマ1,700羽の記録が入り、そしてそれを下流に当たるポイントで観察されている方が複数いるのを知り、わたしも2日間だけ山に行ってみました。数こそ少なかったものの、確かにハチクマが渡って来るのが見られ、「もしかして春もタイミングが合えば、そこそこの渡りが見られるのでは?」と思ったのでした。
ちなみに、渡りのタカは主にサシバ・ハチクマだとして、サシバは雪のまだ残る3月末には渡って来るので、その時点で山にまだ積雪があると、調査地まで行くのは難しいかなぁ、という気がします。ただ、サシバの春の渡りも5月までだらだらと続いている部分もあるので、細かいことにこだわらなければ、ハチクマ観察の時に一緒に見られそうではあります。注意点は、新潟県は繁殖地も多いので、渡りなのか地付きなのか判断すること。
それに比べてハチクマは来るのが遅く、だいたい5月頃になるので、その頃にはもう展望台もひらき、観察にはもってこいの季節となります。
今年のスタートは5/8福岡で1,200羽
タカの渡りは情報戦の部分が大きく、シーズンになると各地の通過状況が気になって日々チェックしている私ですが、今年のスタートは5/8福岡の油山片江展望台というところでカウントされたハチクマ1,200羽でした。
ハチクマの渡りは、春と秋でコースがけっこう違い、秋は東シナ海を横断(南下)する一方で、春は朝鮮半島を回り込むように南下して、九州北部から日本へ入ってきます。
図鑑.jp「樋口広芳先生特別コラム ハチクマの渡りを追跡する」(https://i-zukan.jp/columns/140)より著作権法に基づいて引用しています。
なので、春は九州北部でこんなに大きな数字が入る訳ですが、そう考えるとまとまった群れで渡ってきているのが分かります。
さて、私は最初から「必ず春の渡り観察に行く!」と決めていた訳では全くなく、なんとな~く情報を見ていたら、福井県で「このまま新潟に来そうな数字」が入っていたので、そうなるともう行きたい気持ちがうずうずし始め、「いや待て、この時期の山の小鳥も見たいぞ」という気持ちと一瞬せめぎあうが、タカの渡りが余裕で勝ってしまった。
観察地点
昨年の秋、地元の見附市でシーズン通して観察をした結果から、山本山の偉大さを改めて痛感した私は、春の渡り観察もまずは山本山でと思いました。本当は「海沿いルート」も囁かれているので、海か山かで迷う部分はありましたが、私は山本山のポテンシャルを信じている。行くならここだ。
秋は360℃見渡せる展望台での観察ですが、南からやって来る春はどうなんだろう、と思い、知人の勧めで南側のひらけたソバ畑の脇で観察することにしました。
どうせ一人、360℃の展望台では探しきれない。ここでのんびり待ち構えることにした。
2025年春の記録
とりあえず、福井で数が入り始めた後の5月14日に行ってみたら、朝8:50頃にねぐら立ちと思われるハチクマ3羽、サシバ1羽が下から上がってきて、幸先のよいスタートでした。
視界はずっとスッキリせず、遠くが全然見えないのが困りましたが、雪の多かった年は湿り気があって春霞が出やすいと教えてもらい、仕方ないな…というところ。
5月14日と16日はこのブログで紹介した通りですが、5月19日は、前日の北陸(福井?)がトータル300羽超と賑やかだったそうで、期待して待ち構える。9時台に22羽・10時~12時台にそれぞれ5羽前後と飛んではいるが、果たして上流の波が山本山まで届いているのか・・・正直分からないというか、山本山のポテンシャルを以ってすれば、もっと飛んでもよかろうものを、というところでした。
5月21日は、けっこう飛びそうな雰囲気の日でしたが、朝から急激に気温が上がり、暑すぎて目の前がくらくらしてきたので「これはやばい…」と思い早々に終了しました。暑さに慣れないこの時期の27℃はきつかった。。
ということで、この春は上流の数字を見つつ、初めてマトモに春の渡り観察をしてみました。全部でたったの5回ですが、以下が観察数です。
日時 | 天候 | ハチクマ | サシバ | 他 | 計 |
5/14(水) 8:30-13:30 |
曇り | 24 | 4 | ハイタカ1 | 29 |
5/15(木) | 休み | ||||
5/16(金) 8:30-12:30 |
晴 | 34 | 2 | ハイタカ属SP2 | 38 |
5/17(土) | 休み | ||||
5/18(日) 8:30-11:15 |
降雨終了 | 0 | 0 | 0 | 0 |
5/19(月) 8:30-14:30 |
曇りのち晴 | 39 | 2 | – | 41 |
5/20(火) | 休み | ||||
5/21(水) 8:20-10:30 |
晴27℃ 暑すぎて終了 |
21 | 2 | – | 24 |
合計 | 118 | 10 | 3 | 131羽 |
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そして各地の渡りカウント勢は本当にすごくて、5月末までそれぞれの調査地の数字を届けてくださいました。最後のファンファーレは5/27東あわじ市でのハチクマ180!(サシバも17)、ここに来ての3桁!…なんなの??🥹
2025年春の個人的分析
ということで、今年2025年ハチクマ春の渡り わたし的分析です。
5/8の福岡に始まり、5/27の東あわじで終了とすると、約4週間に亘りハチクマは渡っていたようです。もちろんその前後も飛んでいることを考えると、約2週間で終わってしまう秋と比べるとやはり期間が長いことが分かります。「春は期間が長く、あまり見られない」はある意味正解のようです。
しかも秋と決定的に違うのは、サシバの渡り時期とハチクマの渡り時期が違うこと(サシバ3月・4月/ハチクマ5月)。これも春の渡り観察を長期化させている要因です。これはエサ資源が両種で異なるので、やむを得ないのですが、そう考えるとハチクマがいかに「遅く来て、早く帰る」のかが分かりますね笑(秋の渡りもハチクマの方が動き出しが早い)。
あと、春は「他の個体より早く繁殖地へと入りたいがためにみんなが急ぐ」と思っていましたが、どうも先を急ぐ個体ばかりではないそうで、これも動向が読みづらい一因のようです。
そもそも、ハチクマの国内での春の渡りルートはまだまだ解明されていない部分も大きく、全然見られていないところを飛んでいる可能性だって大いにある訳です。
また、「一気に来るからピークが鋭い」とも言われており、なにが正解なのかは今のところ私には分かりません。
総じてやっぱり「春はむずかしい」のですね。
おもしろ個体の紹介
今回の観察でおもしろい個体に出会いました。5/14の10:34に飛んだこのハチクマ。左翼の内側の羽根が欠損しています。その時は、分かりやすいな~他に見てる人いないかな~くらいにしか思っていませんでした。

そして5日後の5/19。な~んか見覚えのあるハチクマが飛んだぞ?こやつは・・・!!
わはは!欠損のカ所と羽の生え方が完全に一致!同一個体だ!!😝😝😝
山本山が気に入って長居をしていたのか、はたまたここで繁殖するのか。欠損個体だから気が付きましたが、実は意外と同じところをウロウロしていて、私たちは気が付かないうちにダブルカウントをしているのでは…と思ってしまいました。
ただ、この個体は渡りのコースまっしぐらではなく、出た時からウロウロしていたので、そういう個体は要注意ですね笑。
山本山周辺で、翼に欠損のあるハチクマを見つけた方は、どうか教えてください^^
最後に
ここまで書いているうちに、秋の渡りがとっても楽しみになってきました。
まだまだ分からないことの多いタカの渡り。渡りルートに関しては、今後、GPSの普及でさらに解明される可能性もありますが、タカの動向を読んだり、地形図や天気予報を見て考察したりする楽しさと、純粋に鳥を待つ時間のわくわく、来た時のよろこび、来ない時の苦しさ、なんだかそういう全てをひっくるめて「楽しい」と思うのです。
タカが飛ぶ空を、いつまでも守りたいと、そう思いながらいつも鳥たちを見送っています。
みなさん、一緒にタカの渡り観察しませんか??
以上です。